犬のMRに対する僧帽弁形成術(MVP)は、我々が最も積極的に実施している心臓手術です。また、手術をうける患者さんも最も多いです。内科治療では基本的に治りませんが、外科治療を実施すると心臓病症状が改善して、薬の休薬または減量が可能となります。利尿剤による弊害などもなくなり、動物の生活の質を上げることができます。
手術前の検査は手術を受けることができるのか、手術後の合併症をリスクの可能性を把握するための重要なものです。
TPR,体重、血圧測定
CBC、生化学18項目、電解質、CRP、凝固(PT,APTT,FiB)および血液型
- 生化学検査の項目はフルスクリーニングです。TP・ALB・GLOB・ALT・AST・ALP・BUN・CRE・GLU・GGT・TBill・LIPA・TCho・AST・AMY・Lipa・Ca・PHOS・Electrolyte(Na/k/Cl)・CRPなど
- 輸血の最終チェックであるクロスマッチ検査は手術から数日前に実施します。
心房細動などの危険な不整脈が合併しているかどうか確認します。
VHSおよび肺の状態
僧帽弁閉鎖不全症の場合、LA/Ao, LVIDD,LVIDDN, 左室流入波形(E/A)、MR,TR,AR,PRの状態
肝臓、胆のう、脾臓、腎臓、副腎、膵臓、消化管、膀胱、生殖器関連すべての検査。
肝臓や脾臓に腫瘤などがある場合は積極的に手術を実施しておりません。
- 必要に応じで追加検査を実施します。遠方からお越しの場合、かかりつけ病院での検査をお願いすることも可能です。
MVPは壊れてうまく閉鎖できなくなった僧帽弁を修復する手術です。弁の先端と乳頭筋に新しい人工腱索を入れる腱索再建術と、広がってしまった弁周囲に糸をかけて縮める弁輪縫縮術の2つを基本的に実施します。手術は人工心肺を用いて血液の循環を維持している間に心臓を一旦止めます。心停止中に腱索再建と弁輪縫縮を行い、形成が終わった後に、心臓が動くように促していきます。その後、逆流が改善しているのを確認できます。
僧帽弁の先端と乳頭筋に人工腱索を
かけて修復します。
僧帽弁の前尖と後尖が合うように
弁輪縫縮を実施します。
手術の前後では画像検査を実施して心臓の状態を確認します。
左図は肺水腫の状態で、肺野が白くなっています。右図は術後の写真で肺が黒くきれいになり肺水腫が改善しました。
上の図は肺水腫の状態で、肺野が白くなっています。下の図は術後の写真で肺が黒くきれいになり肺水腫が改善しました。
左図は術前の心エコー図検査で、僧帽弁逆流が確認されます。右図は術後に逆流が制御できた状態を示しています。
上の図は術前の心エコー図検査で、僧帽弁逆流が確認されます。下の図は術後に逆流が制御できた状態を示しています。
年間手術件数は100数十件手術を実施していますが、2024年現在では手術成功率(ICU移動率100%)は非常に高い手術となっています。退院率は9割以上(97.4%)とご説明させていただいております。年によって成績は変わることがありますので詳細は獣医師にお尋ねください。多くの患者様が手術により投薬の必要がなくなりますが、重症である場合は、減薬した状態で維持することもあります。
左図は内科治療の生存曲線です。右図は心臓手術症例の生存曲線です。術後、投薬をしないで健康的に長生きができることが多いです。
上の図は内科治療の生存曲線です。下の図は心臓手術症例の生存曲線です。術後、投薬をしないで健康的に長生きができることが多いです。
7〜14日程度となることが多いです。患者さんの状態に応じて決めます。
術後の検診は1,2,3、6,12か月でその後は6か月おきに心エコーは推奨しています。
心臓手術の合併症は重篤になる場合があります。術後、大きな合併症を起こさない患者さんがほとんどではありますが、どのような重症度であっても合併症を起こす可能性があります。手術リスクに関して理解できない場合は繰り返し獣医師にお尋ねください。下記のような術後合併症を起こす可能性があります。
- 心不全 重症例では心機能が低下していることがあります。術後に動きが悪くなったり心不全になる可能性があります
- 出血 出血が継続するようなことはほとんどの患者さんでいませんが、術後止血がうまくできないことがまれにあります
- 不整脈 心房細動などが合併することがあるので、術後治療が必要になることがあります
- 呼吸不全 肺水腫や、肺高血圧症が合併している患者さんでは特に注意が必要です。まれに誤嚥性肺炎などを起こす患者さんもいます
- 腎不全 利尿剤などを長期服用しているような患者さんでは注意が必要です。術前から腎機能が低下している患者さんに対しては術中透析も検討します
- 肝不全 肝臓機能低下、特にビリルビンが上昇すると危険です。
- 膵炎 嘔吐や消化器の問題がでることがあり注意が必要です。入院期間の延長につながることがあります
- 血栓 心臓内には縫合糸などの人工物が入ることや、体外循環の影響などにより血栓ができやすくなります。血栓が飛ぶと脳梗塞などを起こす場合があります
- 脳障害 発作・痙攣をおこすことがあります。もともと発作をコントロールしている場合などは特に注意が必要です
- 感染性心内膜炎 術後免疫低下などにより感染することがあります。弁に感染を起こすと危険な状態にになります。
- 輸血の副作用 我々の手術では輸血量は年々減少しており、無輸血、自己血輸血のみで手術を受ける患者さんも多いですが、大量輸血になった場合は溶血、各臓器障害などを起こすことがあります
- プロタミンショック プロタミンはヘパリンの拮抗薬です。ヘパリンを投与すると血液がさらさらになって人工心肺内に血液を流せるようになります。術後はヘパリンの効果を打ち消す必要があるのでプロタミンを投与します。アレルギーショックを起こすことがあるので、注意して投与します。
- 食道チューブの設置 術後は早期に投薬・食事管理をしたいので、ごはんを食べないような患者さんでは設置をすることがあります。
- その他 現時点で予測困難な合併症が生じたりする場合もあります。
- 術前検査費用 5〜7万円程度(紹介いただいた病院で実施していただく場合もあります)。手術を安全に実施するために必要な検査となります。
- 手術費用 160〜180万円(税別)程かかります(入院費用、入院中検査費用、手術費用の総額費用)。重症度や術後管理、緊急手術などをによる変動します。
- 術後の検診費用 当施設では術後1・2・3・6・12カ月の検診を推奨しています。検査内容により費用が変わります(3〜5万円程度)。
- おおよその費用は各病院で同様ですが、手術費用は異なることがありますのでご確認ください。